神のひとり子

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 神父の声がおごそかに響く。 「『まず、神の国と神の義を求めなさい。そうすればほかのものも全てあなたがたに与えられるであろう』神様を信仰していれば、物欲になやまずとも欲しい物はいずれ全部君たちの手に入ります。聖書はそう教えているんだよ」 そして少しくだけた調子で問いかけた。 「じゃあ、みんなはクリスマスに何が欲しいかな? 天国と神様の教えの次にね」 無邪気におもちゃの名前やゲームのタイトルがあげられる。その中のいくつかを、神父は説教台の下に置いた手帳に書きとめていた。 「‥‥私、服がいいな」 十歳くらいだろうか、うつむいてこぼす女の子がいる。 「えー、服なんか親が買ってくれるじゃん」 児童施設の子供に、罪のない声がかけられた。 (その子は親御さんと暮らしてはいないんだよ) 神父は心の声をのみこんだ。  服が欲しい、と言った子は黙っている。彼女が着ているクマののセーターは、去年まで別の子が着ていた。一昨年はまた別の子が着ていた。
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