神のひとり子

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「あゆみちゃんね、学校でシミって呼ばれてるの」 六歳くらいの女の子が思わず立ちあがって言った。 「かのん、よけいなこと言わないで」 あゆみと呼ばれた女の子は、真っ赤になった。  施設で代々使われている衣類には、落ちきれない汚れもある。そんな衣服ばっかり着ていることを学校でやゆされるのだろう。  あゆみはいたたまれない様子でうつむいている。 「そう。でもこの神の家では誰もそんなふうに呼ばないよね。天国はそういうきれいな心を持っている人たちのためにあります。大切なのは外見じゃない。あゆみちゃんの心はとってもきれいだと思うよ」 「でも神父様、綺麗な洋服を欲しがっちゃだめですか? 神様はこんな私を喜びませんか?」 あゆみは顔をあげてすがるように言う。神父はその涙ぐむ顔を見て、手帳の中に洋服、と書き足した。
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