神のひとり子

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 先生はカーテンで仕切られた談話コーナーに聖司を連れて行った。 「今年のクリスマスプレゼント、どうしても欲しいものがあるので、お母さんに伝えて欲しいんです」 母のいない子もいる施設では、声をひそめて話すことしかできなかった。  聖司の母が用意してくれるプレゼントは、文房具や図鑑、絵本が多かった。それに文句があったわけではないが、今年おもちゃを用意してくれそうな気配はなかった。  今井先生は一回深く呼吸した。 「聖司くん、じつはね、先生からもそろそろお話しなくちゃいけないことがあったんだ」 少し待っていて、と言うと、今井先生は事務室の奥へ入り、段ボール箱を持って帰ってきた。聖司がのぞきこむと、その箱の中は空だった。  意味がわからず、じっと今井先生の言葉を待った。今井先生は昔をなつかしむように、ゆっくり言葉を紡いだ。 「二歳だった君をお母さんから預かった時に、この箱を一緒に託されたんだ。この中に、君が十歳になるまでの誕生日とクリスマスのプレゼントとそしてカードが入っていた。これを八年間、順番に息子に渡してください、と頼まれたんだよ」
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