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◆◆◆
午後4時。放課後。
俺は、保健室に来ていた。
ちなみに、これも俺の日課である。
何が原因だったかは忘れてしまったが、放課後は保健室に行く事が日常化しているのだ。
早く帰りたい、と思う俺にとって時間の無駄のように感じられるこの時間を、しかし、俺は嫌いではない。
何故なら、本校の保健室の先生は、世の中の全男子高校生の期待を、全く裏切らない人物だからだ。
まあ、簡単に言えば……美人なのである。
そんな美人と二人きりになれるのだ。それだけでも、この時間は無駄ではないと感じられる。
しかし、俺がこの時間を無駄に思わない最大の理由は、美人教師の見た目ではない。
その内面にある。
この美人教師は、恐らく誰よりも、親よりも、俺の心を理解してくれるのだ。
そう、彼女は俺の最大の理解者なのだ。
彼女がデスクワークをしている姿を、何をするわけでもなく、ただただ眺めている。
そんな時間さえも、貴重に思えてくるのである。
ふと、俺は、「心」を「読める」能力の事を思い出した。
彼女の「心」は……どうやら見えないようだ。少しだけ、残念な気もする……。
俺は、不意に思い付いた質問を投げ掛けてみた。
先生は「心」を「読む」能力、欲しいと思いますか?
彼女は、少し考えるかのように俺の顔を見つめてから、静かに答えた。
「私は……能力なんていらないかな。」
予想外の受け答えを……。そう思った。
「多分……人間は元々、ちょうど良いバランスの取れた『完成品』なんだよ。もしも、人智を越えるような事が出来てしまったら、それは……」
それは……?
「……それはむしろ、『人間』として『欠落』があるのではないか、と思うわ。」
先生の表情が、一瞬だけ、悲しみの色に染まった気がした。
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