疑心

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数日後の朝。7時05分。 家族全員が揃って食卓を囲み、朝食をとる。 何気無く父さんの顔を見ると、その頭上には<焼き魚が…>の4文字が浮かび上がっていた。 以前は読むことが出来なかった父さんの「心」が読めているのだ……。 そして逆に、現在は妹の「心」が読めていない。妹の頭上に、文字が見えないのだ。 ちなみに、一昨日と昨日は母さんの「心」を読むことが出来ていた。 やはりこの能力はすこぶる使い勝手が悪い。 悪いとは言わないまでも、良くはない。 どのような法則性があるのか分からないが、この能力はどうやら、「心」を「読める相手」と「読めない相手」がいるのではなく、「読める時」と「読めない時」があるようなのである。 また、この能力を活用すれば気が利く男……あわよくば人気者にまで成り上がれるかもしれない、と思ってからというもの、俺の日課には「善行」が追加されているのだ。 「善行」……とは言ったものの、実際にしていることは人助けである。 具体的に言えば…… 登下校中、頭上に<郵便局……>という文字が浮かび上がっていた男性を、郵便局まで連れて行った。 駅で<トイレ……>という文字が浮かび上がっていた、5歳くらいの女の子をトイレまで案内した。 ……等々である。 猫の望みを叶えた事もあった気がするが、どんな願いだったかはハッキリとは覚えていない。 そういう意味では猫助けもしてきたという事だろうか。 要するに、覚えていない事があるほど「善行」を積んできているのである。 まあ、未だに人気者にはなれていない。 だが、人助けをしている、というある種の自己満足とも言える意識は、俺の「心」を確実にポジティブな方向に導いてくれている。 それだけでも「善行」を積む意味を感じる……。 そんな、多少の充実感を感じる今日この頃……朝飯を食べ終えて、時計を見れば朝7時40分。 そろそろ家を出なければならない時間である……。
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