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馥郁堂の扉を開けると、馨瑠さんの背中が跳ねた。
振り返った一瞬、怯えたような顔をしたように見えたが、すぐいつもの表情に戻り「なんだ、君達か。いらっしゃい」と出迎えてくれた。
「なんか、驚かせちゃったみたいですみません」
圭介が頭を掻きながら謝る。
「いやいや、気にしないでくれ。それより今日は何の用事だい?手伝いは頼んでないはずだけど……」
僕を横目でチラリと見ながら馨瑠さんが言う。やっぱりバイト以外で来るのは変に思われたのかもしれない。なんだか急に恥ずかしくなってきた。
「今日は相談があって来たんです」
「相談?圭介君には常々御礼をしなくちゃならないと思っていたんだ。君のお陰でこの店が軌道に乗ったようなものだからね。私で良ければなんでも相談してくれ」
「……実は……」
圭介は言いづらそうにモジモジしていたが、やがて覚悟を決めたように深呼吸をした。
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