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「どういうことだよ、颯太?」
足早に歩く僕を追いかけながら圭介が尋ねる。
「小湊さんの家の近くで日当たりが良く、人通りが少なくて、雨風しのげる所を僕は知ってる。そして……馨瑠さんは生魚を食べないんだ」
馥郁堂の傍を抜けて裏庭へ回る。
目的はあの温室だ。
「……やっぱり」
温室の扉を開けると、こちらに背を向け馨瑠さんはしゃがみ込んでいた。
振り返り僕の顔を見るとギクリという表情をしたが、すぐまた背を向けると足元で刺身を食べているふわふわの塊を撫でた。
「……コタロウ!」
名前を呼ばれてコタロウは小湊さんに気付き、ミャウと小さく返事をした。
「君の猫かい?」
喉をゴロゴロと鳴らすコタロウの頭を馨瑠さんは撫でている。
黒猫と一緒にいる姿は本当に魔女のようで思わず見入ってしまう。
「はい。家出しちゃってずっと探していたんです。見つかって良かった……」
小湊さんは安堵感からか声が震えている。
馨瑠さんはコタロウを抱き上げると、小湊さんの持つケージに入れた。
「彼は少々やんちゃが過ぎるな」
温室の中を見渡すと支柱が倒れていたり、植物が荒らされていたり、小さなプランターが倒れていたりする。
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