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「もう持てませんよ!」
トイレットペーパーやティッシュペーパー、買い物袋を両手に抱えて僕は声を荒げた。
声の先には恐ろしく美しい女性が一人。
僕のバイト先の店主、馨瑠さんだ。
不可抗力でバイトを始めてそろそろ三ヶ月。
僕の仕事内容と言えばもっぱら雑用だ。
掃除をしたり、庭仕事をしたり、今日のように買い物の荷物持ちをしたり……要するに力仕事要因だ。
男である僕が力仕事をするのは異論はないが、プライベートな買い物にも付き合わせるのはどうかと思う。
定休日の今日もメールで呼び出されて買い物に付き合う羽目になった。
「馨瑠さん!聞いてますか?僕はもう持てませんからね!」
聞いているのかいないのか、当の本人は八百屋の店先に並んだ林檎の匂いを嗅いでいる。
きっと品種と香りの違いについて考えているのだろう。
馨瑠さんは犬並みに鼻が効く。
その特技を活かしてこの商店街の外れで馥郁堂というフレグランス雑貨店を営んでいる。
セレクトした雑貨を販売する他、必要であれば自身で調香した商品を売る事もある。
その腕は確かで、僕も馨瑠さんの商品で救われた一人だ。
ただこの馨瑠さん、美しい見た目とは裏腹にとっても変わり者なのである。
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