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「そう何度も言われなくても分かるし、君の腕が二本しかないことも知っている。匂いを分析していたんじゃないか、邪魔しないでくれよ」
不機嫌な顔で林檎を籠に戻すと、馨瑠さんは僕の方へ戻ってきた。
買う気が無いのに商品をベタベタ触るなんて、さぞかし店主は怒るだろうと思い店先を見ると、親父さんは鼻の下を伸ばして馨瑠さんに見惚れている。
美人て得だな、とこういう時にしみじみ感じてしまう。
馨瑠さんは外見が整っているだけで、中身は完全な変人なのだ。
その最たるものが、とにかく匂いを嗅ぐ癖だ。
初対面の人でも、散歩中の犬でも、落ちてる軍手でも、レストランの排気口でも、とにかく悪臭でも芳香でも嗅がずにはいられないのだ。
これはもう、完全に病気である。
僕はせめてもの謝罪を込めて八百屋の店主にぺこりと頭を下げると、帰ろうと馨瑠さんを促した。
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