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「やっぱり商店街はいい。香りが確認できるからな。スーパーのパック詰めされた商品はダメだ。匂いも風情もない。それに魚売場と惣菜コーナーの匂いが混じったあの香りは毎度の事ながら頭がクラクラするよ」
饒舌に語る馨瑠さんの背中を見ながら歩く。
今日は少し肌寒い。
季節がまたひとつ、進もうとしている。
秋の終わりは何度体感してもそわそわして落ち着かない。
そんな考えを巡らせていると、どこからか甘い匂いが漂ってきた。
「あ、金木犀。僕、この匂い好きだな。ポプリにしてばあちゃんにあげたら喜ぶかな?」
僕の言葉に振り返った馨瑠さんは苦い顔をしている。
「止めておいた方がいい。金木犀は昔、御手洗の近くによく植えられていたんだ。汲み取り式の悪臭対策にね。だから、ご高齢の方は金木犀=御手洗と連想する人も多い」
「そうなんだ、残念」
「……とはいえ、私もこの匂いは好きだ」
「馥郁堂では金木犀で商品を作らないの?」
「あれは案外根気のいる作業でね。花を傷付けないように収穫して、ピンセットでゴミを取ってから抽出なんだ。やったとしても、安価では提供出来ないだろうね。それに、咲いたらあっという間に散るんだ。時間的にも間に合わない」
「それって、要するに面倒だからやりたくないって事?」
「まぁ、本音を言えばそういう事だ」
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