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会話をしながら馥郁堂へ戻ると店先に人影が見えた。
その人影は僕等に気付くと慌てたように走って行く。
馨瑠さんは何事もないように首元に下げた鍵を出すと扉を開けた。
「なんかさっき店先に誰かいませんでした?」
「ああ、なんだか最近よく居るんだ。見てるだけじゃなく店に入って買い物でもしてくれればいいんだけどな」
「良くないでしょ。どう見ても挙動不審な奴だったじゃないか。馨瑠さんは危機意識がなさ過ぎだよ。もう少し注意しないと」
「注意といっても限度があるだろう。客は選べないしね、それに、特製の防犯スプレーを常備してるから心配はいらないさ」
不敵な笑みを浮かべている馨瑠さんの特製防犯スプレーは凄そうだ。
使ったら最後、加重暴行で逆に捕まりそうな気さへする。
使用する日が来ない事を僕は願った。
それにしても、この人の危機感の無さには驚かされる。以前も鍵を掛けずに寝ようとしてちょっとした言い争いになった。
結局その時は僕が鍵を掛けて、店先の植木鉢の下に置いておいたのだが、それを忘れて鍵を無くしたと思い込み、しばらく鍵を掛けずに生活していたらしい。
あまりに無頓着なので鍵は常に首から下げるように頼み込んだのだ。
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