揺蕩う季節

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「店が休みの日まで呼び出すなんて人使い荒すぎですよ」 「店が休みの日にしかできない事もあるだろう。ありがたい事に店が繁盛してきて買い物や掃除も儘ならないんだ。」 確かに閑古鳥の住処となっていた馥郁堂は、圭介が贈ったプレゼントをきっかけにじわじわと口コミで知られるようになり、最近は土日ともなればそこそこの売り上げを上げるようになっていた。 近くにある市民病院が生花の持ち込みが禁止のため、お見舞いに選ばれるようになったのも大きい。 以前は売り上げの殆どがネット通販だったのが、ここのところ半々くらいになりつつあると聞いた。 常連さんと呼べる人も出来た。 時々僕が手伝いに来ているものの、学生なので時間が限られている。 防犯のためにも新しく従業員を雇った方がいいのではないかと思うのだが、経営に関する事だし、なかなか口を挟めないでいた。 「買い物は済んだから掃除しちゃいますね」 「ありがとう。宜しく頼むよ」 馥郁堂は複雑怪奇な前衛アートのような構造をしていて掃除が大変だ。建築物は水平垂直に建っているものという僕の固定観念がここでは通用しない。曲がったり、反ったり、凸凹していて非常に手入れがしにくい。
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