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「なんでこんな構造にしたんですか?色々と不便でしょうに」
曲線でうまく扱えない掃除機を引っ張りながら僕は聞く。
「私が知る訳ないだろう。オーナーの趣味だ」
オーナーがいるなんて初めて聞いた。確かに馨瑠さんの年齢と収入を考えたらオーナーがいるのは当たり前のように思えるが、その存在を感じた事はなかった。
複雑怪奇とはいえ馥郁堂は建築家がデザインして一貫したコンセプトの基に建てられたように見えるし、建築費用だって馬鹿にならないはずだろう。それならオーナーもこの建物に愛着があると思うのだが、僕は一度もオーナーに会ったことがない。
「オーナーってどんな人なんですか?」
「どんなって言われても……まあ、強いて言えば魔女みたいな人だよ」
「……魔女、ですか」
僕は馨瑠さんの事をこの屋敷に住む魔女のように思っていたから、その馨瑠さんをして魔女と言わしめるオーナーがどんな人なのか、興味を抑える事が出来なかった。
なのでいくつか質問をしたのだけれど、はぐらかされてしまった。
ついには「そんなに気になるなら、本人に聞けばいいじゃないか」と言ったきり黙ってしまったので、それ以上は聞くのを止めた。
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