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「あの、棗くん」
「何?どこかオススメの店ある?」
「お店じゃなくて…実は私、和食、得意です」
「………」
和食なら、だいたい何でも作れる。
子供の頃から、ママに教え込まれてきたから。
棗くんの口に合うかはわからないけど。
「……私の手料理なんて、どうでしょうか」
ランチに行くという当初の約束からはだいぶ遠ざかってしまうけど、棗くんに手料理を振る舞えるチャンス。
つまり、棗くんの家に行くチャンスって事。
それは、どんな高級なお店に行くよりも、私にとっては価値がある。
棗くんが普段生活している場所が見たい。
その空間を、私にも共有させてほしい。
……欲ばかりが、増していく。
「……やっぱり、お店の方がいいよね」
だけど、いいよ、とはやっぱり言ってくれない棗くん。
結局私のアピールは虚しく終わり、スマホを取り出してお店探しを開始した。
「そういえば駅前に最近、和食のカフェが出来たって未央が…」
「何作ってくれんの?」
「……え」
その瞬間、棗くんは私の手を繋いで。
駅とは逆の方向へと歩き始めた。
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