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キッチンでカフェオレをいれる。 私は夕方になっても、食事の仕度をしなくてよくなった。 その代わりにカフェオレと本を数冊用意して、優しいグリーンの一人がけ用ソファに包まれるように膝を抱えて座る。 「この家が君の職場だからね、社長の椅子が必要だよ」 そんな冗談と共に用意された、私の特等席だった。 私が本を読むときや、考え事をするとき、疲れてしまって寛ぐとき、ひとりで帰りを待つ間、いつもここに座っていた。 本を一冊手にして、視界の端に綺麗に整頓されたリビングを映した。 誰も散らかしたりしない。そっと、埃が積もるだけの。 結婚と同時に建てたこの家は、当時の設計図通り作られた部屋を六年たった今でも、そのまま余らせていた。 視線を落として キッチンの明かりでページをめくる指先から、カサリと乾いた音が落ちて。 私を幸せにも、悲しい気持ちにもさせない、穏やかで柔らかい物語を選んで積み上げていく時間の始まり。 それがいっぱいになったら、私は眠りにつく。
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