人をあやつる

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 あやつる。  その魅力的な響きに僕が魅了されたのは一体いつの頃からだっただろう。  思い返せば、父が出張土産と言って寄越してきたあまり可愛くもない木でできたマリオネットを下手くそながらに操作することを楽しいと思ったことがきっかけであったかもしれない。  僕が糸を引くことで、複雑怪奇な動きを見せるマリオネット。およそ人の動きとはかけ離れたその動き。糸を垂らせば、その四肢はだらしなく垂れさがり、糸を引き上げればその四肢を跳ね上げる。  ちぐはぐで滑稽なダンスを躍らせるうちに、人形の魂を僕の手が握っているような万能感を、幼心に覚えたのだ。  それまでは漫然と見ていたテレビの人形劇。自らの手でマリオネットを操ろうと四苦八苦してからは、執り行う人々のその巧な腕に感嘆して、同じようにマリオネットを操作できないものかと真似てみたものだ。  そしてある時、とある考えが頭に浮かんだ。  人間でマリオネットを作るとしたら――。  全ての関節を外して糸で繋げばいいのだろうか。いや、やはり一度切り離すべきか。そうするならば、関節を外したうえで四肢を切断していくか。しかし、断ち切るなら血液が多量に出るだろうから、まずは血抜きをしてからか。重要なのは、骨ごとにパーツを分けることだろう。胴体は腹部と胸部の二部分に分けるべきか。……ああ、グロテスクな内臓もすべて取ってしまった方がきれいな人形に仕上がるだろう。  無論、善良な市民である僕が残虐なことを現実に実行するはずがない。けれど、考えるのは自由だ。時に娯楽的なホラー映画を見ては、実行に移した時は如何程なものなのかをただ、空想してみるのである。  そして更に考える。犯罪を犯さずあやつる方法を、といえば。  日本語には、糸を引くという慣用句があるように心理的にその人を支配して、思い描く通りの行動を取らせるという手法もある。  自分の目的のために、相手の意識を自由に操作するのだ。  外的刺激による洗脳。サブリミナル効果によるインプリンティング。催眠術。思考誘導によるマインドコントロール。手法はいろいろあれど、ただ他人にこうしろ、ああしろと言ったところで言うとおりになどしてくれない時に、己の言いなりにさせる方法だ。  それらは何かしらの――金銭を寄越せ、性奴隷となれ、といった欲求を持つことが動機となるのだろう。  だから、僕にはこういった手法は向いていない。
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