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狼のプロローグ
「お前は、ここに居て、人を待て」
そう、私のことを刀に封じ隠してくれたお父さんは優しく祈るように言ったのでした。
私を、護ってくれる人、受け入れてくれる人を待て、と。
それから三年、私はただ黒い海が広がるそこで眠るように待っていました。
眠りの中で一つの夢を見ながら。
男の子が、色んなものに拒まれながら、頑張る姿を。
顔や体型はもやがかかったようにはっきり見えませんが、何をしているかは把握できました。
多人数が相手でも、諦めず立ち向かい、困難も一人で解決していく。
独りで。
その姿はとても格好良く、でも、寂しく悲しく、痛々しい姿でした。
いつからだったののかな……。
君を独りにしたくないって思い始めたのは。
黒い海だけだった世界が、火を灯し、青い空が広がりその空を写す海、その水面に楓の木が現れ、世界が形を変えます。
彼と私の世界を繋ぐために。
第一章 炎の中で。
紅葉している森に入り少ししてから後ろを振り向く。
怪物は、木を倒しながら進むことは出来るようだが、あの巨体で少し手間取っているようだった。
オレは、手榴弾を取り出しピンを抜き怪物に投げる。
野球のベンチで磨いた投球コントロールはまだ錆びきっていないようで、なんとか怪物の元に届き、次の瞬間、爆発した。
鳴き声が聞こえたが、ダメージに対するものでなく、唐突な攻撃に対する驚きだろう。
オレは全力で走り出し、とにかく距離をとる。
すると、少し広い場所に出た。
そこには鳥居があり、社があり、一つの小さな神社があった。
人は、あまり来ていないようで、手入れはされていなかった。
少し、社とかもぼろぼろだ。
人里が近いのか?
疑問に思いながら、オレはバックパックにしまってある手榴弾を一つ取り出し、あの蜘蛛を撃退する準備を始める。
いや、これで倒せるとは思わないけど。
まあ、少しでも傷を多く負わせれば良しかな。
そうすれば、この怪物が二人を追う可能性は少なくなるから。
命と引き換えにするほどの価値はあるのかも。
木を薙ぎ倒しながら怪物がオレに迫ってくる。
オレは、後ろに下がりながら手榴弾のピンを抜こうとした、が。
「うがッ……!?」
左脇腹に何かが刺さり思わず手から手榴弾が落ちる。
怪物が、片足を突き出してきたのだ。
その脚は、元々伸縮が可能だったのだろう。
貫かれ、わき腹から血が流れていた。
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