第1章

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距離が開いてるからと言え、油断するべきではなかった。 「がふ……」 口から血が零れる。どこかの臓器がつぶれたか、医学に詳しくないため分からないが、どうやら結構な重症らしい。 口の中に鉄の味が広がる。 やべぇ、真面目に死ぬな、コレ。 そう客観的に自分の終わりを捉える。 怪物はオレを貫いたまま、空に掲げその前足を振り下ろす。 その威力でオレは、投げ飛ばされ地面を跳ね、社の障子を突き破り、棚にぶつかり止る。 地面で皮膚を削り、骨にもヒビが入り、小さな木の枝なども刺さってしまった。 これもリバティギアの能力のせいなんだろう。 普通の人間なら死んでいる怪我も、こんな風に少し生きながらえるようになっていた。 身体が動かない。 身体中が痛い。 メガネのレンズは割れ、視界がぼやける。 聞こえてくるのは、怪物の足音だ。 その足音は、電気椅子に縛られ、電流を流すスイッチを押す瞬間を思い浮かばせた。 最後の最期の瞬間は、オレのモノだった。 そう諦めることにした。 死ぬって、なんだろうな。 心臓が止まるだけ、脳に酸素が送られなくなるだけ、その温もりがなくなるだけなのに、なんでこんなに怖くなるのだろう。悲しくなるんだろう。 一度、死について書いたことがあった。今ほどではないが死に近づいた事もあった。 それでも、何が怖いのか、悲しいのか分からなかった。 後悔があるから、何かを伝えてないから、何かを残してないから、自分の遺伝子を残してないから。 どれが答えか解らない。 でも解っていることはあった。 もう死ぬんだろう、と。 『でも、死にたくないですよね』 立ち向かっても、勝てるはずが無い。 『それでも、立ち向わなきゃ。今までの君はそうやって生きてきたでしょ?』 声がする。 オレを、励ます声が。 立ち向かっても、勝てない……。 生きる力がないんだ……。 『その為の力が欲しいですか?君の運命(これから)を選ぶとしても?』 それは、きっと自分で選んだ道だ。 後悔なんて、無い。 『君は、きっと戦える。でも、今とは変わってしまう。君だけの運命は無くなってしまう……。それでも、私の手を掴んでくれますか?』 ただ、優しさで差し出してるのではなく、自分を受け入れて欲しい、そんな少し泣きそうな、祈るような声に聞こえた。 ああ、そんな風に言われたら拒めないじゃないか。
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