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地上には魔力が溢あふれていた。
それは、神が世界を創造した時に使われた力の残滓ざんしであった。
人間は魔力を利用し道具を造り上げ、技術を発展させていった。
魔族は魔力を利用し魔法を練り上げ、異能を発展させていった。
自然を慈いつくしむ魔族と、自らの発展のため自然を破壊し続ける人間。
いつしか、人間と魔族。いがみ合うふたつの種族はやがて……魔力を使い互いを傷つけあい始めた。
――人間と魔族……両者の間の溝は広がるばかりであった――
◆◇◇◆
「よくぞ……来た!」
謁見えっけんの間に響き渡った声は、しかし……俺の耳には、どこか遠くの方から聞こえてくる様に思えた。
全身に変に力が入り汗が噴き出してくる。
床に敷しかれた豪奢ごうしゃなカーペットの所々には、汗によって染みが出来始めていた。
両側の壁に、沿うように並び立つ兵士達の目が降り注ぐのを全身で感じながら、俺は思わずにはいられなかった。
――なぜ、こんな事になってしまったのか――
俺は、今朝起こった出来事を振り返っていた。
「おきろー!ひろー!」
朝早く、突然俺は姉ちゃんに叩き起こされた。
今日は、なんかおめでたい事があるという事で学校は休みな上に、俺の16歳の誕生日でもある。
祝われる筋合いはあっても、叩き起こされる様な、非道な目にあわされる筋合いはない。
「おきろ!ひ・こ・ま・ろ」
頭からすっぽり布団を被り、籠城ろうじょうしようと寝たふりを決め込んだ俺の耳元で姉ちゃんが大声をあげた。
「その呼び方はやめろよな!姉ちゃん!」
俺は反射的に布団を跳ね飛ばし立ち上がり、意地悪そうな顔をした姉ちゃんを見て『やられた』と心の中で呟いた。
「別にいいじゃない、本名なんだし……」
俺は自分の名前が嫌いだ。
両親は俺に将来立派な英雄になってもらいたくて彦麻呂ひこまろと名付けた。
正直狂気の沙汰だと思う。シンプルに『英雄=ひでお』とかに出来なかったのか……。
両親曰く『普通なんておもしろくない。奇をてらい、捻っていたらそういう名になった(彦麻呂=ひこまろ=ヒこまロ=ヒロ=ヒーローという事らしい)後悔はしていない』
捻りすぎだろ。大体理解出来るかそんなもん。
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