旅立ち1

3/3
前へ
/3ページ
次へ
名を付け直せと両親に詰め寄ってみたが『それは無理』と勝ち誇った顔。  この国では一度付けられた名は死ぬまで変更する事が出来ない。これは法律で決まっている。破れば死罪だとかぬかしやがった。  俺は、顔面グーを入れたい衝動しょうどうを必死で抑えなければならなかった。  グレて、道を踏み外そうとも考えた時期もあった。  だが、俺は思った。どう足掻こうが国家権力には勝てない。俺がグレようが『彦麻呂の呪い』が消える事は決してないのだと。これは俺が背負うべき業なのだと。  当時厨二病だった俺は『自分は呪いと闘う悲劇の主人公』なのだと言い聞かせて、人格形成に重要な影響の出る時期を乗り越えたのだった。  「とにかく……さっさっと着替えて降りてきなさい。大事な話しがあるから」  そう言うと姉ちゃんはさっさっと部屋を出て行ってしまった。  「大事な……話?」  一瞬、脳裏に『サプライズパーティ』の文字が浮かんだが頭を振って打ち消した。  ありえない……あの両親、姉にかぎって、それだけは『絶対にない』と断言出来る。  では、なんだろうか。寝ぼけ頭でそんな事を考えていると指に違和感が。  よく見てみると、右手の人差指にインクがべったりと付着していた。  「いつのまに付いたんだ?」  俺はぶつくさ言いながら2階の流しで手を洗うと、自分の部屋に戻り衣服を着替えた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加