0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
塁上のルパン
〇千石マリーンスタジアム
ピッチャーが振りかぶった瞬間、一塁から二塁へスタートを切るランナー。
N「足が速いだけでは盗塁王は取れない。ピッチャーのモーションを研究し、スライディングの技を磨き、凡ゴロでも塁に残れる技術……。だがそうやって盗塁王となった選手も、最初に憧れたのは華やかな4番ホームランバッターではないだろうか――」
タッチをかいくぐり、土ぼこりを巻き上げて二塁へ滑り込む岸谷透(24)。
野球放送「セーフ! セーフです! 岸谷、今シーズン48個目の盗塁成功! 『塁上のルパン』と呼ばれるだけあって塁を盗みまくります」
オーロラビジョンに電光の文字が輝く。『岸谷選手、通算100盗塁おめでとう』の文字。
プレゼンターから特大の花束を受け取り、観客席に大きく手を上げる岸谷。
〇同 一塁ベンチ裏
選手1に食いついている野々村結子(26)をハラハラして見ている松本(22)。
結子「あの大事な場面で空振りなんて……やる気あるんですか?」
突き飛ばされ、尻餅をつく結子。
結子N「あたしは東都スポーツのプロ野球担当記者で『激辛キッコ』と呼ばれている。なぜならあたしの書く『ファウルチップ』は選手を一人ずつこき下ろすコラムとして名物だからだ」
両手に大きな花束を抱えた岸谷が出てきて記者達がざわつく。
記者1「100盗塁、おめでとう、岸谷クン」
記者2「ほんっとに足が速いねえ。さすが『塁上のルパン』。盗塁の天才」
岸谷「どーも、どーも」
岸谷の投げキッスのパフォーマンスにドッとウケる記者達。
岸谷「やあ、激辛キッコさん」
岸谷、結子が立ち上がるのに手を貸し、大きな花束の一つを差し出す。
岸谷「どうぞ。嫌いでなければ」
結子「そりゃあ……あたしだって女だもの」
松本「へええ。キッコさんて女だったんスかあ……」
結子に叩かれる松本。
岸谷「似合いますよ」
結子「……口が達者ね」
岸谷「そちらの毒舌ほどじゃないですよ」
結子「フン」
が、花束に結子は嬉しそう。
最初のコメントを投稿しよう!