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〇結子のマンション(深夜)
エレベータで最上階に降りる結子。抱えた花束を見、鼻歌を歌って上機嫌。
非常階段への扉を開け、外を見ている今中慎吾(13)。
結子、慎吾を横目で見ながら鍵を出す。
結子「こんな時間に何してんのかな……」
ちらと結子が振り返ると、慎吾は階段の柵を乗り越え、飛び降りようとする。
結子「え……ええっ?」
結子、仰天して花束を放り出し、慎吾の足をつかんで引き戻す。
内側に転がり落ち、勢い余って花束をつぶし、壁に激突する慎吾。
慎吾「っつー……」
痛さに声も出ない様子の慎吾。
反動で結子も尻餅をついている。
結子「バカ! 痛いのはこっちよ」
よろっと立ち上がる結子。ズボンをはたく。
慎吾、何とか態勢を立直し、腕をさすりながら結子を見上げる。
慎吾「何で止めたんだよ。よけいなことして」
結子「冗談じゃないわ、目の前で死なれてたまるかってのよ。寝覚めが悪い」
慎吾「……それだけ?」
結子「当たり前でしょ。人口過多なこの世の中。消えたいならどうぞご自由に」
慎吾「……ボクんちのこと、知らないの?」
結子「有名なの?」
慎吾、黙り込む。その視線の先に、中身のぶちまけた結子のずだ袋。野球選手の写真が貼ってある資料の束が封筒から飛び出ている。
慎吾「野球……」
結子、その荷物を拾い集める。
結子「興味あるの?」
慎吾「(ぷいと横を向き)……嫌いだよ」
結子「あ、そ。じゃあたし帰るから。好きなだけ続きをどうぞ」
結子、荷物を集め終わると、押し潰れた花束を拾い、がっかりした様子。
結子「ぺったんこ……」
慎吾「……ボクの居場所……ないんだ」
振り返る結子。
座り込んで下を向いたまま、泣いている様子の慎吾。
慎吾「ボクの居場所、もうないんだよ……」
結子「(ため息)少年、家どこ? 送ってくよ」
慎吾、結子の隣のドアを指さす。
結子「お隣り?(唖然)」
その時、急にけたたましく鳴り出す非常ベル。
驚いて立ち上がる慎吾と結子。
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