塁上のルパン

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〇同 マンション外観(深夜) 外に集まっているマンションの住人達。   消防車の横で消防署員が怒っている。 消防署員「困るんだよね、こういうイタズラ」   今中美紀(34)を支える今中俊作(38)が頭を下げている。 今中「すみません、今、家内はちょっと精神状態が不安定になってまして……」 青い顔でブツブツつぶやいている美紀を見つめる結子。   その隣に寄って行く慎吾。が、ふてくされてそっぽを向いている。 住人1「お気の毒よねえ、今中さん」 住人2「一部上場だからって安心できないわよね。ご主人の会社、いきなり倒産だもの」 消防署員がやっと解放してくれて、今中が美紀を促す。 今中「ウチへ入ろう」 美紀が慎吾に目を留める。 美紀「慎吾ちゃんはいい子ね。一流高校に一流大学、一流の会社に入るのよ……」 慎吾「……」 今中「慎吾、帰るぞ」 ぷいと横を向く慎吾を見る結子。 結子「あんたのお母さん?」 返事をせずに、今中と美紀の後からついていく慎吾。 結子「ひねたガキ……」 結子の肩に、ポンと手をかけるサングラスの女、椎名朱子(44)。 朱子「何の騒ぎ?」 結子「ママ」 住人達が朱子を見てギョッとする。 住人1「ちょっと……椎名朱子じゃない?」 住人2「女優の? うっそー、ここに住んでるって噂、本当だったんだ」 再びざわつき始める住人達を適当にいなし、とっとと引き上げる結子と朱子。 〇同 結子の部屋(深夜) 缶ビールを朱子に放り投げる結子。 結子「ったく……不用意に顔出さないでよね、住みにくくなるんだから」 朱子「だってこんな時間に住人に会うなんて思わないじゃない。何だったのよ?」 結子「お隣りの奥さんがね、意味もなく非常ベル押しちゃったんだって。旦那さんが失業して神経が参ってるんだって」 朱子「へえー……」 結子「今日初めてお隣りの顔見た。マンションの近所付き合いなんて全然ないもんね」 朱子「同年代の子供がいる専業主婦のグループはあるみたいよ。うちなんか浮きまくり」 結子「何で知ってるの?」 朱子「管理人が私のファンでね、いろいろ教えてくれるのよ」 結子「中学生くらいの男の子がいた。これがひねた小僧でね」 朱子「えーと、どこだったか有名私立中学に入ったばっかりよ。頭いいんじゃないの?」 結子「……居場所ないってどういうことだろ」 朱子「え?」 結子「そう言ってたのよ、あの子」 朱子「両親が大変だからじゃない?」 結子「でもお母さんはあの子が支えみたいだし……」 朱子「ふうん」 缶ビールを飲み干す二人。
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