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〇川原
ズカズカ歩いてくる結子。
結子「変なヤツ……何考えてるんだか」
座り込んで草野球を見ている慎吾がいる。
結子「あれ……お隣りの悩める少年」
ヒットやエラーで一喜一憂するグラウンドの少年達をうらやましそうに見ている慎吾。やがて結子に気づき、慌てて立ち上がる。
結子「フーン。野球、嫌いだなんて嘘つきね」
慎吾「嫌いだよ。大っ嫌いだ!」
結子「どうしてよ?」
慎吾「高校の受験科目には野球はないんだよ。そんなことも知らないの?」
結子「(呆れて)あんた有名中学に入ったばっかなんでしょ? なのにもう高校のお受験の心配なわけ?」
慎吾「したくないさ! だけどしようがないだろ? 野球やってる余裕なんてないんだよ」
結子「ふうん?」
慎吾「すごいだろ……ボク、倍率15倍を見事に蹴散らして今の中学に合格したんだ。しばらく浮かれてた。……だけどさ、入ってみたら今度はその15倍に勝ち抜いた奴らを更に蹴散らさなくちゃ上へ進めないんだ。そこで何とか勝っても、今度はその中で……。どんどん厳しい競争になっていく」
結子「まあ……そう言われればそうよね」
慎吾「周りみんな全員頭よく見える。ボクなんかもう勝っていけない……そういう人間は社会は必要としないんだろ? そんなヤツの居場所なんか、くれないんだろ?」
結子「5月病か。頑張るつもりのないヤツの言い訳ね」
慎吾「(カッとする)頑張ろうとしたさ! だからリトルリーグやめて、もう野球はしないって約束して勉強勉強……でも何のためなんだよ?」
結子「何のためって?」
慎吾「そうやってずっと勝ち抜いて一流大学、一流会社へ入ったお父さんは……今どこにも居場所がない」
結子「じゃ、舞台を降りれば? 普通の中学、高校で野球なり何なり、やりたいことやって。それでいいじゃない」
慎吾「そ、そんな簡単に……」
結子「未練あるなら頑張りなさいよ。やる気ないならやめなさい。どっちか選んで腹くくるしかないでしょうが」
結子をにらむ慎吾。
慎吾「……もうどうでもいいんだ」
駆け出そうとする慎吾の腕をつかむ結子。
結子「どうでもいいなら、明日つきあわない?」
慎吾「……どこへ」
結子「デーゲーム」
慎吾「え……」
結子「学校さぼる気あるならね」
仏頂面の慎吾。
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