塁上のルパン

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〇千石マリーンスタジアム 2塁から3塁に滑り込む岸谷。 野球放送「岸谷、2盗に続き、3盗も成功。これで今シーズン60盗塁達成です!」 3塁上でユニホームの泥を払っている岸谷。 結子の隣の客席で、目を輝かせ、夢中で見つめる慎吾。 〇カレー屋 「いんでぃ」 カウンターで、結子と岸谷の間に座ろうとする慎吾を、岸谷の左隣りに座らせる結子。 結子「あんたはここ」 慎吾「んだよー、どこだっていいじゃん」 岸谷、結子を勘繰る。 岸谷「こんなコブ連れてきて……僕とのデート、やんわりお断りってことですか?」 結子「本気の誘いじゃないでしょ」 岸谷「あれ? 通じてなかった?」 慎吾「ねえねえ。岸谷さんて甲子園に出たA高校で4番バッターだったあの岸谷でしょ?」 岸谷「お、知ってたか」 慎吾「もちろん。みんな憧れてたんだ」 岸谷「そうかそうか」 岸谷、慎吾の頭をくしゃっとなでる。 マスター「へい、普通カレー大盛お待ち」 マスターが岸谷と慎吾の前に皿を出す。 マスター「へい、いつものお待ち」 結子の前に出されたカレーを見て、顔をしかめる岸谷と慎吾。 岸谷「……すっげー匂い」 慎吾「真っ黄っ黄だー」 マスター「30倍カレーだからね」 岸谷、慎吾「30倍?」 すましてパクパク食べる結子に、岸谷も慎吾も目を丸くする。 岸谷は、薬味を左手で器用に皿に取る。その左手が、左隣りでカレーをすくった慎吾の右手とぶつかる。 岸谷「おっと、失礼」 慎吾「ううん……あれ、岸谷さんて左利き?」 岸谷「いや、右利きだよ」 慎吾「だよね。グローブ左にしてるもんね」 結子「2年前からよね、両方使えるようになったのは」 慎吾「それって……もしかしてスイッチヒッターになるために?」 岸谷「そう。箸も左、文字書くのも左。何でも左でやるように変えたのさ」 慎吾「そんなにしないとダメなの?」 岸谷「利き腕利き足、目の位置全部変わるんだよ。生活から変えなくちゃうまく行きっこないだろ?」 慎吾「どうしてそこまで? 岸谷さん、甲子園では右打席であんなにすごいホームラン……」 岸谷「それは高校時代のこと。プロに入ったらさ、そんなレベルのヤツなんか掃いて捨てるほどいるんだよ。正直プロ指名されたとき、わんさといる高校球児の競争に勝って嬉しかった。でもそこからがまた更に大変な競争のスタートだったんだ」
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