塁上のルパン

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慎吾、固唾を飲んで岸谷を見つめる。   結子、すまして岸谷が慎吾に話すのを聞いている。 岸谷「ポジションも取られ、代打でも振るわなくて僕の居場所はなくなった。このままじゃこの世界にいられない、でも舞台を降りることにも踏ん切りがつかなかった」 慎吾「……それでどうしたの?」 岸谷「この世界にいたいと思うなら、何かで自分をアピールしなくちゃいけないことに気づいたんだ。自分にしかない武器を強烈に磨いてね」 慎吾「そう……か」 岸谷「僕の力を片っ端からチェックしたよ。それで見つけたのは、皆よりほんの少し足が速いことだった。だから少しでもそれを生かすために、より一塁に近い左打席に立てるバッターを目指したんだよ。凡ゴロでも塁にとにかく出れるよう。そして今『塁上のルパン』と呼ばれるまでになった」 慎吾「自分にしかない武器……」 岸谷「誰でもそれはわかってる。ただ実行できないだけなのさ。僕のきっかけはこのお姉さんの激辛の記事なんだよ」 咳き込む結子。 結子「バカ、そんなことは言わなくていいの」 岸谷、結子を見、ふうん、と納得顔になる。 慎吾「……その記事、どんなことが書いてあったの?」 岸谷「さあてね……もう思い出したくないくらいボロクソだったよ」 慎吾「……」 すましてカレーを食べ続ける結子。 〇同 外 考えながら歩いている慎吾。 後からついていく結子と岸谷。 岸谷「僕のことダシにしましたね? あの子に僕の話、聞かせたかったんでしょう?」 結子「ダシだなんて人聞きの悪い。ただ思い出しただけよ、あんたの昔を」 岸谷「少しは脈あるんですかね、僕の過去、覚えててくれたってことは」 結子「記事にした選手のことは忘れないわ」 岸谷「ちぇ。でもあきらめませんよ、あなたのこと。激辛キッコさん」 結子「マジじゃないわよね?」 岸谷「おかしいですか?」 苦笑する結子。
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