そのときはプッシュバント

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○同 ベンチ裏 結子「――こいつも」   ロッカールームから出てくる堂本。結子に気づき、立ち止まる。 結子「さすがね」 堂本「……今日のどのプレイを誉めてくれてるんでしょうか?」 結子「あんたのやり方よ。必死な自分の背中を見せるだけで他の部員はついてくる。口下手な分そういうのが雄弁だってこと、思い出したみたいね」 堂本「――オレの高校時代、調べたんだ?」 結子「あなたのこと、洗いざらいね」   結子、ニッと笑ってやる。   やられた、という顔の堂本。   結子、クルリと背を向け、清々した様子で歩き出す。 結子「ったく、自分で解決できるくせに、人を巻き込むんじゃないっつーのよ」 結子、唇を突き出しながらバッグから紙を取り出す。 結子「せっかくベタ打ちしたのに、ムダになっちゃったじゃない」 ベタ打ち『最初は送りバントを狙っていても守備が送りバントと決めつけてダッシュしてきたら、その一瞬の間に切り替える。そのときは、プッシュバント――相手が前進したために空いた死角へ。堂本はいつも相手を見ている。相手の出方を、相手の動きを、相手の癖を。それに対して、どんな対抗でもできるよう情報を集め、研究をし、技術を磨いている。相手にとってこれほどイヤな選手はない。 BY キッコ』 堂本「あの……」 堂本が追いかけてくる。 慌ててベタ打ちの紙を握りつぶす結子。 堂本「本当のところ、風間監督とどういう関係なんですか?」 結子「……何ですって?」 堂本「いやあ……何かありそうな感じだったから、ちょっとカマかけてみただけなんですけど」 結子「――ハッタリだったってわけ?」 クワッと堂本を睨みつける結子。 結子「なーにが口下手よ、この駆け引き魔……」 堂本は目を細めて涼やかな笑みを浮かべる。 結子は、またそれ以上毒をつくことができなくなり、そそくさと逃げ出す。 結子「(苦笑い)クソ――あの笑顔って、武器って言うより凶器だわ……」  結子の後ろ姿にキッチリ礼をする堂本。
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