そのときはプッシュバント

3/10

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
○コラム『ファウルチップ』 いつでもどんなときでもホームランを狙う打者なんて一流ではない。ただ「機転」という言葉を知らないだけだ。スイングスの伊藤はそういう選手になりたいのか。試合の展開が見えずに突っ走る選手に明日はない。  BY キッコ ○カレー屋『いんでぃ』 結子の前に置かれたどぎつい黄色のカレーが冷めている。 松本「キッコさん、どうしたんすか? 好物の30倍カレー……」 結子「ああ……」 一口食べる結子。 結子「――苦手なのよ……」 松本「えー? カレー、あんなに好きだったのに?」 ポカッと殴られる松本。 結子「叩かなくたって自分のやることわかってるヤツ。叩く必要のないヤツ」 マスター「あー、そうか。キッコちゃんのやり方が通用しないオトコがいるんだ」 松本「堂本拓未のことですか? 確かに、堂本って小技がきくし、守備も抜群。足も速くてホームランも打てる」 マスター「ファンサービスもいいよー。うちの娘がサインと握手してもらったけど、絶対断らないし、ヒーローインタビューでは必ずオチをつけて笑わせるし」 松本「おまけに腰が低くて礼儀正しい。イケメン――とはいえないけど、その笑顔は女を惑わせる強力な武器」 マスター「あ、キッコちゃんも悩殺(やら)れた?」 結子「――んなわけないでしょ!」 結子、一息つき、カレーの皿を取る。そして猛烈な勢いでカレーをかっ込んで平らげる。 ○東郷ドーム スコアボードには、先攻スイングス、後攻グレートチキンズ。1―0でグレートチキンズの負けで終わっている。 一塁ベンチで風間貢一(52)が、囲んでくる記者達を手で払っている。 風間「これ以上話すことはない!」 記者達は仕方なくみな足を止め、風間はズカズカ歩いていく。 記者1「グレートチキンズの風間監督――『球界のドン』を怒らせちゃまずいよな……」 記者2「もう一言欲しいけどさ」 が、結子が風間の前に立ちはだかり、一言二言。 記者3「バカだな、あいつ」 記者2「怒鳴られて出入り差し止めだ」 が、風間は渋い顔で結子に一言。結子は風間に「ありがとうございました」と会釈している。 記者1「うそー……何で?」 その様子を、三塁ベンチから見ている堂本。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加