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○コラム『ファウルチップ』
いつでもどんなときでもホームランを狙う打者なんて一流ではない。ただ「機転」という言葉を知らないだけだ。スイングスの伊藤はそういう選手になりたいのか。試合の展開が見えずに突っ走る選手に明日はない。
BY キッコ
○カレー屋『いんでぃ』
結子の前に置かれたどぎつい黄色のカレーが冷めている。
松本「キッコさん、どうしたんすか? 好物の30倍カレー……」
結子「ああ……」
一口食べる結子。
結子「――苦手なのよ……」
松本「えー? カレー、あんなに好きだったのに?」
ポカッと殴られる松本。
結子「叩かなくたって自分のやることわかってるヤツ。叩く必要のないヤツ」
マスター「あー、そうか。キッコちゃんのやり方が通用しないオトコがいるんだ」
松本「堂本拓未のことですか? 確かに、堂本って小技がきくし、守備も抜群。足も速くてホームランも打てる」
マスター「ファンサービスもいいよー。うちの娘がサインと握手してもらったけど、絶対断らないし、ヒーローインタビューでは必ずオチをつけて笑わせるし」
松本「おまけに腰が低くて礼儀正しい。イケメン――とはいえないけど、その笑顔は女を惑わせる強力な武器」
マスター「あ、キッコちゃんも悩殺れた?」
結子「――んなわけないでしょ!」
結子、一息つき、カレーの皿を取る。そして猛烈な勢いでカレーをかっ込んで平らげる。
○東郷ドーム
スコアボードには、先攻スイングス、後攻グレートチキンズ。1―0でグレートチキンズの負けで終わっている。
一塁ベンチで風間貢一(52)が、囲んでくる記者達を手で払っている。
風間「これ以上話すことはない!」
記者達は仕方なくみな足を止め、風間はズカズカ歩いていく。
記者1「グレートチキンズの風間監督――『球界のドン』を怒らせちゃまずいよな……」
記者2「もう一言欲しいけどさ」
が、結子が風間の前に立ちはだかり、一言二言。
記者3「バカだな、あいつ」
記者2「怒鳴られて出入り差し止めだ」
が、風間は渋い顔で結子に一言。結子は風間に「ありがとうございました」と会釈している。
記者1「うそー……何で?」
その様子を、三塁ベンチから見ている堂本。
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