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○同 ロッカールーム前
結子「よしっ、あとは社に戻って、と……」
駆け出そうとする結子の肩を、ポンと叩く手。結子が振り返ると堂本の笑顔。つい腰がひけ、視線を外す結子。
結子「な、何よ……」
堂本「あの」
結子「言っとくけど『あんたの番』なんて来ないわよ。今日なんか振り逃げで一塁に生きて盗塁成功、外野手の肩が弱いと見て次のシングルヒットですかさずホームまで駆け抜けた――そんな隙のない野球の出来るオトコに用はないの」
堂本「――それ、誉めてますね?」
結子「……そりゃ、まあ」
堂本が嬉しそうにニッコリする。
堂本「ありがとうございます」
結子、また居心地悪くなる。
結子「どう……いたしまして。じゃ、ね」
結子が逃げるように駆け出そうとすると、その肘をつかむ堂本。結子は漫才のようにつんのめる。
結子「――まだ何か用があるのっ?」
堂本「お願いが」
堂本の後ろからひょいと顔を出す森山文也(23)。背広姿にビジネスバッグを手にしている。
森山「どおも~」
結子、眉間にシワ。
結子「何よ、あんたは」
森山「阿武内保険の森山と申します~。なるほど、堂本の言ってた通り、素晴らしくキャリアキャリアしてるお姉さんですね」
結子「――保険?」
堂本「すみません、こいつオレの高校時代の野球部仲間で、どうしてもノルマが足りないって言うんで」
結子、肘を掴んだ堂本の手を振り払う。
結子「あたしが助ける義理がどこにあるのよ?」
結子、駆け出す。
堂本が追いかける。
結子、慌ててスピードを上げる。
が、堂本は楽々結子の前へ出てその行く手を塞ぐ。
結子「――盗塁王に叶うわけない、か……」
悔しそうな結子。
堂本「本当に申し訳ありません。話を聞くだけでもいいですから、つき合ってやってくれませんか?」
結子「嫌です。さよなら」
結子は更に堂本の横をすり抜けようとする。
すると、堂本がその耳元に素早く囁く。
堂本「風間監督との関係……公にしていいんですか?」
結子の足がピタリと止まる。
結子「――何ですって?」
結子が堂本を睨む。
堂本「あ、やっと僕を見てくれた」
結子「……あんた、今何て言ったの?」
堂本「保険屋の友達の話、聞いてやって下さいと。お~い、森山。OKだってさ」
森山が駆けてくる。
結子がもう一度堂本を睨む。
堂本はニッコリと笑みを返す。
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