そのときはプッシュバント

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○結子のアパート 居間 カーペットにひっくり返って大笑いしている椎名朱子(46)。 朱子「激辛キッコが脅迫される日がくるなんてね! 人のこと脅すのなら大得意なのにねェ!」 片手に持った缶ビールの中身をこぼすほどバカ笑いしている朱子に、鼻を鳴らす結子。 結子「あのねえ。あたしが脅迫されたってことは、ママが脅迫されたってのと同じなのよ? 独身女優の椎名朱子と家庭持ちの風間貢一の間にあたしっていう娘がいるなんて、三人とも大打撃じゃないの」 朱子「――あ、そうか」 ピタリと笑いが止まる朱子。 朱子「で? その保険、入ってやったの?」 結子「突っ返してやった。顔洗って出直して来い! って」 またブーッと吹き出す朱子。 朱子「あんたって面白いわね~、一体誰に似たのかしら」 結子、朱子のこぼすビールを拭いて回り、放り出す缶やポテチのかけらを片付けながら。 結子「ったく、他人事みたいに……」 しかし、結子は困っている顔ではない。 朱子「――でも楽しそうね」 結子「あたし以外がこのネタで、風間以外の人間を脅すなんて、いい度胸じゃん」 ニンマリする結子。 結子「気合い入れてご要望に応えようじゃないの」 腕まくりしてパソコンを立ち上げる結子。 ○千石マリーンスタジアム ベンチそばで伊藤を囲む記者達。 記者1「今日のホームランは素晴らしかったですね」 伊藤「発憤しましたからね――こないだの記事で」   伊藤がポケットから、東都スポーツ新聞コラムの『ファウルチップ』の切り抜きを取り出し、結子を挑戦的に睨む。 ニッと不敵な笑みを返す結子。 伊藤の横から堂本が駆け出てきて、結子を引っ張る。 堂本「あの……」 結子「――悪いけど、あたしが用があるのは伊藤だけだから」 堂本「そんなことないでしょ? 僕にも用があるでしょ?」 堂本がちょっと切羽詰まり気味に笑う。   結子、その笑いに不審そうな顔をする。 結子「――あいつ、来てるの?」 堂本「ええ――けどその、ちょっと手遅れになっちゃったかも……」 結子「え?」 結子、堂本に引っ張られて一緒に駆けていく。
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