そのときはプッシュバント

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○同 ロッカールーム 先日のスーツとは一転、ラフなGパン姿の森山がベンチにドカリと座っている。 その横に座る結子。 結子「保険会社、辞めたんだって?」 森山「ああそうだよ。清々した」 結子「そりゃよかった。こっちも清々した」 森山「――何だよ。止めるとか慰めるとかないのかよ」 結子「別に。いずれ辞めるってわかってたから」 森山「ウソつけ」 結子「誰だってわかるわよ。あんた、バカだもの」 森山、カッとして立ち上がる。 森山「誰のせいだと思ってるんだよ!? お前がすぐに契約してくれないからノルマが足りなくなったんだよ!」 結子「へえ。あたしのせいなんだ?」 森山「ああそうさ。だから上司に怒られて、あったま来たから辞表叩きつけてやったんだ!」 結子、笑い出す。 森山「――何がおかしいんだよ?」 結子「あのねえ。あんたのあの勧誘で契約する人がいたら、あたし東京タワーのてっぺんで逆立ちしてあげるわよ」 森山「何だと!?」   殴りかからんばかりの森山に、全くひるまない結子。   その険悪な雰囲気を止めるでもなく、じっと見ている堂本。 結子「あんたの勧誘、あたしのこと独身を貫くキャリアウーマンと決めつけてたじゃない。あたしがどんなライフスタイルを送りたいか、今どんな生活をしているのか全く聞こうともしないで」 森山「え……だって、――初めて会った人だし、そんなのわからな……」 結子「聞きゃーいいでしょ! 何のためにその口ついてんのよ?」 森山「……」 結子「悪いけどね、あたしだって一生独身のつもりはありませんから」 結子、森山にフンと鼻を鳴らす。 結子「さて、と」 結子、立ち上がって視線を森山から堂本へ移す。 結子「あんたの方がこいつよりバカよ!」 堂本「え……」 面食らう堂本。 結子「自分は口下手だから、どうアドバイスしていいかわからない、って? だからって他人のあたしに頼むことなの? あんたなりにできること、考えてみたの?」 堂本「……」 結子「脅迫されてるから来てやったけどね。これ以上バカにつき合うと移りそうだから、帰る」 ズカズカと出て行く結子。 森山「――何だよ、あれ」 ふうー、と天井に向かって大きく息を吐く堂本。 堂本「――僕の番、だな。やっぱりあの人、きっかけをくれるんだ」 森山「やめろやめろ、あんな不愉快な女に関わるの」 堂本、森山に笑いかける。 堂本「お前さ、明日ヒマ?」 森山「そりゃ……会社辞めたし」 堂本「じゃ、試合見に来てくれよ」 森山「?」 堂本、森山を促して歩き出す。
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