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○東郷ドーム
スコアボードには、先攻スイングス、後攻グレートチキンズ。
始球式が終わり、先発ピッチャーがマウンドに立つところ。
グレートチキンズのベンチには真ん中に真田がどっかりと足を組み、腰を下ろしている。
外野席に座っている結子と松本。周りを見回す結子。
スコアブックを準備し、始まる試合を真剣に見つめている初老の男がいる。
帽子も応援用ユニホームも全て47をつけ、メガホンには山下の写真がベタベタ貼ってある若い女性の一人客がいる。
グラウンドのユニホームとは違う古くさいユニホームと帽子を身につけている父子がいる。
結子「さて、真田を見たいファンがどれだけいるか――」
まずは女性の一人客に声をかけようとした結子のスマホが震える。
結子「はい、もしもし……」
河埜の声「野々村か? お前、今東郷ドームだよな?」
結子「ええ、そうですが」
河埜の声「冷静に聞けよ――」
結子の顔色が変わる。
松本「キッコさん?」
電話を切る結子を、不安げに見る松本。
松本「何か?」
結子「ヤバイことになってるみたい」
○同 スタジアム内
結子と松本が、こっそりと周りを見回すと、売店で並ぶ客やトイレに行く客、モニターで試合経過を見ている客に紛れて、イヤホンをつけた臥体のいい男達がちらほら。明らかに他の客とは違う緊迫したムードが漂っている。
結子「刑事だわ。ほら、あっちも」
松本「な、何で?」
結子「――爆弾、仕掛けたって電話があったんだって。球場のどこかに」
一瞬固まって、それから蒼白になる松本。
松本「じゃ、じゃあ、早く逃げなきゃ」
結子「『観客は一人も外に出すな』って」
松本「じゃ試合中止にしてもらって……」
結子「それも犯人がストップかけてる。中止にしたらドカン、だって」
あたふたする松本。
松本「ど、どうしてそんな……要求は何です?」
結子「グレートチキンズの勝利」
松本「……グレチキのファン?」
結子「かもね。同じ脅迫がグレートチキンズにもいったらしいけど、でも相手のスイングスには何も知らされてないらしい。だから八百長も不可能」
松本「けど、最近のグレチキはドツボってるから、飛ぶ鳥を落とす勢いのスイングスにはとても……」
結子「――そうね」
松本「ボ、ボク、昨日彼女と喧嘩しちゃったんです、謝らなきゃ。あ、実家のオフクロにも全然連絡取ってないし……」
泣きそうな顔になってバタバタとスマホを取りだす松本。
結子「あたしは……」
結子もスマホを取り出す。
結子「最後に話したい人がいるとしたら、ママと……」
黙り込んで球場の方を振り返る結子。次の瞬間客席の方へ駆け出していく。
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