55人が本棚に入れています
本棚に追加
はじめて黒い灰が降った翌日、日の光に照らされ現れたのは、血の海だった。体のあちこちから血を流し、出血死している人々の死体の山。目の前の状況に呆然としている人々を嘲笑うかのように、太陽が昇るにつれて黒い灰はそれ自身に熱を集め、跡形もなく消えていった。
――――まるで、これは神からの罰だと言わんばかりに。
そんな光景を、この青年も見たのかと思うと複雑な気分になった。いくら当時大人に近い年だったとは言っても、まだ親の保護を必要とする未成年だったはずだ。大人であっても肉親や大切な人が目の前で死んでいるのを見るのはきついものがあるというのに、彼はそれを十代で体験しているのだ。佐久良が何も言えなくなっていると、琅は困ったように笑った。
「もう、終わったことだから」
佐久良は何も言わず、ただその頭を撫でた。それに一瞬身をこわばらせるも、琅はどこか嬉しそうにされるがままに佐久良に身を預けてきた。その視線は、外へと向けられている。キラキラと舞う、黒い灰。ガラス戸一枚隔てたすぐそこにある景色を、彼は夜になるといつも見つめていた。
「……気になるのか?」
「うん。……綺麗だと思う」
はじめて出会ってから一ヶ月。琅は佐久良とずっと行動を共にしている。ひっそりと、空気のように、佐久良の邪魔をしないようにしながらも常に佐久良のすぐ近くにいる、琅。佐久良が触れる時だけ、そこに存在しているかのように。それが最初から自然なことだったというように。今までそこにいなかったことが不可解に思えるほど、琅は佐久良の生活にするりと入ってきた。佐久良に与えられた時間は半年だ。あと五ヶ月で、何らかの返事をご老人に返さなければいけない。そうぼんやりと考えながら、もしかしたら琅ならば描けるかもしれないと佐久良は思い始めていた。
最初のコメントを投稿しよう!