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平日の夜のせいか、まばらに人とすれ違う景色は
至って見慣れた光景そのもの。
ところが、自宅のある通りへ出るべく自転車を左折させた途端のこと。
いきなり目の前に広がった物々しさに、俺は、思わず自転車を止めた。
その曲がり角から俺の自宅までは、十数メートル。
だが、ブロック二つにも満たないその距離全体を巻き込むかに、
回転する真っ赤な光が包んでいる。
そして然して広くもない通りには、半分は野次馬だろう人の姿が
わらわらと浮かんでいた。
そんな光景を少し呆然と見ていた俺に、
間もなく、近寄ってきた制服姿の警察官が声をかけてきた。
「お帰り途中ですか?」
帽子のつばに軽く指をかけ、にこやかに尋ねる中年の警官に
俺は、素直にバイト帰りであることを告げる。
「そうですか。実は今、ちょっと人を探してましてね」
どうやら探し人は老婆のようで、だいたいの年齢と背格好の説明に続き、
若干の肌寒さを感じるこの夜気の中、上着も着ない薄着だと知らされる。
「で、どうですかね。帰り道のどこかで見かけたとかはなかったですか?」
だが、結構な人とすれ違いはしたものの、薄着姿の老婆の記憶は全くない。
俺は、少し考えてから黙って首を振った。
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