盾と鉾とオレと犬

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. .   ☆  あのあと、謝り倒されながらも改めて告白されたオレは、それでもすぐには付き合う勇気が持てなかった。当時はわんすけとのことも少し引きずったままだったし、なにより相手は男だ。思いがけず身体を重ねてしまった事実は消せはしないけれど、酔っ払った一夜の過ち。そう無理やり捻じ伏せようとすればするほど、オレはみのりへの想いを自覚せざるを得なくなっていった。本当はそうなる前から好きだった。みのりが嫌がるオレを無理やり襲うとは考えにくい。恐らくあの夜、誘ったのはオレのほう。  だから余計に遠ざかろうと思った。バイトを辞めたらもう関わることもない。そう安易に消せると考えていたオレに、意外なほどみのりは食い下がってきて、いつまでも待つと言い出した。十歳も年下の若造になに言ってんだこのオッサン、と思わず口走った。けれど嬉しかったのも事実で。 「流星のは、正しいけど間違ってるよ」  根負けして自分の話をせざるを得なくなったオレに、みのりは静かに言ったっけ。 「流星自身を捻じ曲げることに、意味ってあるのかな。心は平和になる?」  降参だった。苦難を越えてきたじいちゃんの話を額面どおり受け取ってこじらせてきたオレも、みのりの前では無力だった。  自分らしく人生をまっとうするほうがいい。捻じ曲げた未来をつくろうとするなら、それは過去の繰り返しで意味なんかないんだよ。選べるんだから、選んだらいい。ねえ流星、本当の君はどうしたい?
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