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「『いつも優しい気持ちで生きていきたい』、だって」
「ん。全部のベンチに違う言葉がついてんだ」
「へえ、そうなの?」
声のあとに、風みたいなさりげなさで耳に唇が触れたのがわかる。思わず耳を押さえると、小さくフフッと笑ってみのりが離れてゆく。遅れて顔面に熱が集まってくるのを感じた。
「それ、ジェラート食べながら周ってみたい。……流星?」
ほんと、時々子どもみたいだ。敵わない。全部もってかれる。
「わかった。行こ」
悔しいから前のめりで立ち上がって前のめりでずんずん歩く。
「流星、ねえ、なにかあった?」
橋のたもとですぐに追いついたみのりがサラッと訊いてくるから、驚いて一瞬だけ足がもたついてしまう。
「なんで」
「いまちょっと泣きそうな顔したよ?」
「……別に。気のせいじゃん?」
恥ずかしさに目を伏せた先、落ち葉が音もなく水中へと吸い込まれてゆくのが見えた。
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