盾と鉾とオレと犬

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 オレはいつか普通に結婚して、子どもつくって、ずっとこの命を繋いでく。じゃけぇ、おまえとはヤらん。男の味覚えたりとかしたくないけぇ。そんなんオレの人生にはいらんもん。  高校生の頃、秘密で付き合っていた男がいた。同級生。オレのあとをホイホイどこにでもついてくる犬みたいな奴だった。実際髪型も犬みたいに真ん中わけのモップみたいになってて、ついたあだ名は「わんすけ」。付き合おうとか明確な言葉もなく、気づいたら人目を忍んでキスをするようになっていた。けれど最後の最後まで身体の関係はなし。対等でありたいという気持ちが強くて、屈したら負けてしまう気がした。逆に、捻じ伏せるのも嫌だった。だからもっともらしい言い訳をして、わんすけには口の中以上を与えなかった。 「んっ……みのり……」  いまではほかの男の腕のなかで抱かれることを覚えた。まるで呪いのような言い訳から開放してくれたのも、そこからさらに一歩踏み出す勇気をくれたのも、この人生捨てたもんじゃないと気づかせてくれたのも、全部、みのりだ。 「流星。もっと、腰、上げて」 「も、無理、だって……や、あっ、あ……イッ……!」  お腹の下に挟んでいたクッションを押し潰す勢いで強引に打ちつけられた瞬間、オレは脳裏に閃光をみた。遅れてみのりが射精したのをなかで感じる。目を閉じて浸る。ドクドクと脈打ち吐き出される生命の証は、それでもオレのなかで拡散することはなく、薄い膜に守られてすぐに捨てられる運命だ。いっそ生で出されて妊娠でもしてしまえたらどんなに素敵なことだろう。みのりの子ども。オレの子ども。このままいくと、そのどちらも未来永劫存在し得ないことになる。  オレたちでは命を繋げない。
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