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祭礼が終わり、神輿を担ぐまで少し時間があった。
「今日、よろしく」
と、南くんが声をかけてきた。
「よろしく」
嬉しくなって返事した。
こういうスマートなところが、南くんはカッコいい。
「佐山さんはデートなんだって?」
佐山さんとは、麻美ちゃんの苗字だ。
「うん。冠治くんとでしょ?」
「そんなこと、冠治が約束するかなぁ」
「麻美ちゃん、強引だもん」
「すっごいよなぁ。冠治よりも強引なんてあり得る?」
弟の史也(フミヤ)がだらしのない格好で、神社の裏手から降りていく。
連れだって歩いているのは、評判の良くない先輩だ。
私と目が合うと、ニヤニヤしながら耳打ちした。
弟が、ゆがんだ笑い顔でこちらを見た。
世の中をなめ腐ってるという感じが、プンプン臭う。
南くんが気づいた。
「史也くんは、かつぐの?」
「あの調子じゃ分かんないな…着替えて街に出ちゃうかも」
私は気を取り直して言った。
「南くん、似合うね。すっごくいいよ」
「え、そう?母さんにカカシみたいって言われたんだけど」
「カカシぃ~!?」
冠治と取り巻きの集団が横を通り過ぎた。
「おい」
急に声をかけられて、ビックリした。
「史也はどうした?」
「…いたはずなんだけど」
子分が声を尖らせた。
「敬語使えよ!」
「スミマセン」
「いい。コイツは」
なにがいいのか、よく分からないけど、子分がうなずいた。
…どんな集団だ。
冠治が私を見た。
もう完全にオトナの体つきになってる。
お父さんの仕事手伝ってるからかな。
ふっと目線がはなれて、冠治たちが立ち去った。
南くんが言った。
「迫力あるねー」
私も心臓に手をやった。
「麻美ちゃんの気がしれない…」
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