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夜になった。 湯あみしてから、近所のお母さんたちに正絹の浴衣に着替えさせてもらう。 「汚すんじゃねぇどー」 「はーい」 純白だ。 閉じ籠められている間は、甘酒と白い食べ物ばかりの食事が出るけど、 トイレに行けないから、あまり口にしないと聞いた。 それほど、汚すこともないだろう。 小屋に入るまでは、被り物をしてお互いの顔は見ない。 手を引かれて、小屋へ誘導された。 神主さんの祝詞が終わると、ロウソクの灯りしかない小屋へ入った。 扉が閉まり、ようやく被り物を取る。 そこに全く知らない男の人がいた。 驚きで声が出なかった。 高校生?もっと上? その異様な雰囲気に、扉に飛びついた。 その手を引き剥がされる。 「だ…だれかっ…」 口がふさがれた。 バタつかせた足が、食器をなぎ倒す音が聞こえた。 思いきり、ひっぱたかれた。 男の手が、私の下着に入ってきた。 ゾッとした。 泣き声を上げながら、抵抗しても男の力には敵わない。 ひっひっひ…と喉が鳴るばかり。 舌打ちしながら、男が股間にねじ込んできた。 痛みと恐怖に悲鳴を上げた。 入ってるのか、何なのか、痛いだけでよく分からない。 「ナンだよ…これぇ!」 男がイラついた声を上げた。 その時だった。 小屋が揺れた。 地震がきたのかと思った。 木の破れる音がして、扉が剥がされた皮膚のように垂れ下がった。 外気が顔をなでた。 私に覆い被さっていた体が無くなった。 「なんだ!ガキかよ!」 冠治だ。 たった一人だ。 「コロス」 一言だけ聞こえた。 飛びかかってきた男のエリをつかみ、足払いをかけて床に蹴り倒した。 すばやく、その肺の上に座り込む。 「酒、取ってくれ」 訳もわからず、私は奉納されていた一升瓶を手渡した。 冠治は怒号を上げる男の口に、一升瓶の口を開けて突っ込んだ。 男がむせてもお構いなしに、注ぎ続ける。 鼻をふさがれ、顔を背けようとする男は、自分の吐瀉物にまみれ、酒が目に入った痛みに涙を流し、無惨だった。 だんだんと男の抵抗が弱まってゆく。 冠治が、また手を伸ばしてきた。 もう一本手渡した。 また口に入れては、飲み込ませる。 死なない…?と聞きたかった。 でも「コロス」と宣言していたことを思い出して、黙っていた。
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