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ようやく気がすんだのか、冠治が男の体から腰を上げた。 自分で三本目の口を開け、甘酒用の杯を拾って私の隣に座りこんだ。 男は、大きなイビキをかいて転がっている。 「最後までやられたか?」 私は首を横に振った。 「分からない」 私の前に瓶が差し出された。 お酌しろということらしい。 震える手で、お酒を注いだ。 その手を冠治が握った。 握った手で注がれた酒を口にふくむと、私に口移しで飲ませてくれた。 ようやく、涙が出た。 冠治が、肩を抱いて泣かせてくれた。 ここが故郷だ。 母もいない。 父は腐ってるし、弟はロクデナシ。 だけど、ここが私の故郷だ。 そう思いきれたら、心の底から安心した。 涙をぬぐって、体を起こした。 身仕舞いを整えて、今度こそキチンとお酌した。 開いたままの扉の外で、虫が鳴いている。 「抱きたい」 冠治が言った。 私はうなずいた。それが自然だという気がした。 蚊帳へ入り、 かき抱かれた腕に、 吸われる唇に、 限りない愛情を感じた。 神聖ってこういうことを言うんだ… 自然と瞳が閉じられる。 帯が解かれた。 一緒にカラダもココロもほどけてゆく。 冠治がゆっくりと息を吐く。 「一回しか言わねぇからな…」 手が乳房にふれる。 「ずっと好きだった」 その声がカラダのすみずみまで染み渡る。 冠治の手の感触に、ため息がもれる。 うれしさと、きもちよさと、安心感。 冠治の首筋をアマ噛みした。 冠治が笑った。 イタズラの仕返しのように、熱い口づけが返ってきた。 それに答えていると、脚が広げられて、かたいものが入ってきた。 う、ううーん…と、私はうなった。 いたわるように、口づけが深くなる。 私もそれに集中する。 「…しあわせ」 この言葉がどちらの口から出たのか、覚えていない。 私はいつのまにか、腰を動かしていた。 今度は冠治が、うなり声を上げた。 「出るって…」 「ダシテ」 冠治がタマラナイというように、ため息をついた。 ふっ切れたように、腰を突き上げてくる。 「ああっん…ぃぃ」 本当はとても痛かったけど、それよりも満足感のほうが強かった。 カラダをのけぞらせると、破れた扉の向こうに月が浮かんでいた。 みて… もっと、 み、て…
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