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深夜過ぎだったか…冠治が起き上がる気配がした。
数人が部屋へ入ってきて、あの男の体と一升瓶を持ち去った。
「部屋も片しますか?」と、小さく低い声がした。
シッと冠治が言った。
「そいつだけでいい」
床をきしませながら、みんなが居なくなった。
冠治が寝床へ戻ってきた。
また静かになった。
日が上って、小屋の外からざわめきが近づき、それがふっとやんだ。
冠治が私を起こした。
いたたた…
ふらつく足で立ち上がると、冠治が手を貸してくれた。
二人で、みんなの前へ顔をさらした。
オバサンもオジサンも、目を見開き、口をポカンと開けている。
冠治が、履き物を揃えてくれたので、肩を借りながら足を通した。
下界へ降り立ち、まわりをもう一度見回したが、だれも何も言わない。
冠治が、宮司さんに目でうながす。
宮司さんが、おずおずと祝詞を上げる。
ついには、いつも通り。
何百年も続いた祭事の一場面になった。
私はフラフラだったけど、冠治は誰よりも堂々と日の光に照らされていた。
みんなが、こうべをたれた。
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