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序章 薄っぺらな愛
――あなただけはわたしを裏切らない。そうよね?
幼子に接するようにやさしい声で、手のひらはさも愛しそうに髪を撫でる。
裏切らない。
その答えは必要だったのか。
対面するその瞳にはいつも批難が込められている。
いや、よくよく見れば、なんの感情も映っていない。
ただ、自分が勝手に見出しているのかもしれなかった。
必死に伸びてくる手は捕まえようとしても、いつもあと一歩のところで届かず、けれど、いまは違った。
伸びた手はそのしぐさが表す意味とは逆行して、伸ばし返した手を嘲笑うかのようにどんどん遠のいていく。
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