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もうたくさんだ!
冷たいぬかるみに沈んでいき温度が奪われていく感覚のもと、叫んだ声は呻き声にしかならない。
チャリン、と地獄の番人が待ちかねたように拘束の鎖を鳴らす。
もしかしたら、連れていく気なのかもしれない。
薄っぺらな愛を注ぎ、当然の愛を独占するために。
そうしたければそうすればいいんだ。
そうつぶやく間際。
「紫己(シキ)」
その声が、ぬかるみに嵌まった躰をすくいあげた。
目を瞬き、視界に映るものに焦点を合わせていく。
右半分に、淡い色で薄らと幾何学模様を施した天井が映り、左半分を不安そうにした顔が占める。
「なんだ」
ぶっきらぼうに吐くと、問うように細い首がかしいで、長い髪が裸の胸を撫でた。
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