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5.一つしかない選択肢
仕事を終えてビルを出ると、かまえる間もなく不快な熱気につつまれる。
仕事中は一歩も外に出ることなく、窓もないインドアですごすから日中がどんな天気なのか気にすることもないが、七月も終わりかけ、すっかり季節が夏になると太陽がギラギラしていたのか否かくらいは見当がつく。
湿気をあまり感じないぶん、まだ耐えやすいほうだろう。
外灯すらもうっとうしいほど熱を発散して見えるなか、朱実は駅へと向かった。
急がずとも、少し歩いただけで汗ばんでくる。
「朱実さん」
駅はすぐそこという場所でふと名を呼ばれた。
朱実は足を止め、声のしたほうに目を向けた。
ちょっとさきの、タクシー乗り場がちょうど途切れた歩道の脇に、ピンクっぽい色の車が止まっている。
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