5.一つしかない選択肢

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その言葉は耳もとで空回りして、脳内に浸透してくるまでに時間が要った。 かつてはその呼称で、あるいは似た呼称で呼ばれていたのに、いまになっても慣れることはできない。 ましてや、慣れる慣れない以上に、なぜ静華がそれを知っているのか。 一瞬、凍りついたようだった鼓動がやけに鮮明になって、破裂しそうに痛みだす。 「なんの……ことですか」 「調べたのよ。気になるじゃない、ムラサキがなぜ朱実さんに関心を持つか。 朱実さんはわたしたちとはまったく違うタイプでしょ。 世界が違うせいだと思ってたけど……。 何がムラサキを惹くんだろうと思って、その違う世界を覗いてみたくなったの。 そうしたら、ほんと、驚いたわ。 旦那さんの元妻を殺すなんて、元愛人がやりそうなことよね。 旦那さんが、やっぱり奥さんのほうがよかったって云ったのかしら」
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