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関係が変わろうと、ここは住み慣れて躰も気分的にもなじんでいる。
まえに住んでいたみすぼらしいアパートもそう感じるようになっていたはずが、いま思いだしてもぴんとこない。
立ち尽くした位置から一歩も動けなかった朱実を現実に戻したのは、玄関ドアの開閉音だった。
「紫己、おかえりなさい」
リビングに入ってきた紫己は朱実を見て、冷ややかに顔をしかめる。
「いま帰ったばかりなの。お風呂はさきに入ったほうがいい? 洗ってほしいなら……」
「嘘を吐くな」
紫己はぴしゃりとさえぎった。
「……紫己?」
「三十分まえには帰ってた。桔平とのことで学んでないのか」
紫己は不在であろうと監視できることを忘れていた。
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