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紫己を裏切りたくないのに、嘘を吐いたと思わせてしまう、自分の至らなさを朱実は後悔した。
「……ごめんなさい。三十分もたってるって思ってなくて」
「ごめんなさい、か」
「ごめ……」
紫己の嫌いな言葉をまた云いかけていると気づいて、朱実は口を閉じた。
紫己は視線で朱実を縛り、つぶさに見つめてくる。
何を感じとっているのだろう。
朱実は不安が読みとられないように努めた。
呼吸するのもままならず、息が詰まる。
「りんごが食べたい」
「……りんご?」
あまりにも突飛で朱実は呆けたように問い直した。
「ああ。このまえ買ってきただろ」
「……うん、わかった」
朱実はうなずいて、肩にかけていたバッグをソファに置くとキッチンに向かった。
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