5.一つしかない選択肢

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紫己を裏切りたくないのに、嘘を吐いたと思わせてしまう、自分の至らなさを朱実は後悔した。 「……ごめんなさい。三十分もたってるって思ってなくて」 「ごめんなさい、か」 「ごめ……」 紫己の嫌いな言葉をまた云いかけていると気づいて、朱実は口を閉じた。 紫己は視線で朱実を縛り、つぶさに見つめてくる。 何を感じとっているのだろう。 朱実は不安が読みとられないように努めた。 呼吸するのもままならず、息が詰まる。 「りんごが食べたい」 「……りんご?」 あまりにも突飛で朱実は呆けたように問い直した。 「ああ。このまえ買ってきただろ」 「……うん、わかった」 朱実はうなずいて、肩にかけていたバッグをソファに置くとキッチンに向かった。
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