5.一つしかない選択肢

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冷蔵庫からりんごを出して、まな板と包丁を準備する。 その間にジャケットを脱いだ紫己がやってきた。 「りんごを切るだけなら包丁じゃなくてもナイフですむ」 紫己はカウンター越しに朱実の手もとを覗きこんで口を出した。 なぜわざわざそんなことに干渉するのか、朱実にはさっぱりわからない。 「……どっちでもいいけど、わたしは包丁のほうが使いやすいから」 紫己は答えている間にカウンターをまわってキッチンに入ってきた。 「なら、プレゼントだ。よく切れるっていうナイフ。女が好きそうなデザインだろ」 「わたし……ナイフがちょっと苦手で……」 云いながら、差しだされた紫己の手に釣られて、朱実は目を向けた。
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