5.一つしかない選択肢

17/31
前へ
/583ページ
次へ
紫己は、乳白色の地に花模様を施したボーンチャイナの柄を握り、金属の刃をかざして見せた。 それは、友里花の胸を貫いたナイフだった。 ――いや、それは警察にあるはずだから、似たナイフか。 「教えてくれ、何があったか」 紫己が一歩踏みだしたとたん、朱実はまた後ろに下がった。 けれど、背中はすぐ壁に当たって行き止まる。 少しでもナイフから逃げようと、朱実はその場にしゃがみこんで躰を縮めた。 「朱実」 「……知らない。……わからないの」 あのとき起きたことは憶えている。 なぜそうしなければならなかったのか、わかっている。 けれど、なぜそうなってしまったのかがわからない。
/583ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1396人が本棚に入れています
本棚に追加