5.一つしかない選択肢

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「朱実の母親も、裁判で同じことを云ったな」 紫己は可笑しくもないのに笑う。 「嘘を吐くよりマシか」 空々しく笑い声を立て、カバーでナイフの刃を覆うと―― 「もうりんごはいらない」 紫己はナイフを朱実の足もとに放り、身をひるがえした。 投げられ、ことことと振動しながら、ナイフはやがてぴくりともしなくなった。 あのときの友里花を彷彿させる。 呪縛されたようにナイフに見入り、朱実は身動きできなかった。 彼女の胸に突き刺さるナイフと、白いブラウスに滲んでいく濡れた朱の色は対照的だった。 もしもあの瞬間に戻れるのなら、自分が何をするべきなのか。 いまの朱実なら、それだけはわかる。
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